『懐古的洋食事情3 キャベツ巻き次第』では明治から昭和までの洋食の歴史が描かれます。
大夜会始末記(明治20年)
チャリティー夜会を引き受けた望月伯爵家。とはいえ、屋敷も料理も和風の伯爵家のこと、洋風パーティなど開いたことがなく、当主夫妻も投げ出す始末。
しかたなく若奥様・梅子さんが若い見習いコック・新(あらた)と様々な料理を選べる「ブフェ・パーティ」を企画するのだが…。
純和風の家での洋風パーティーを開くために悪戦苦闘。
結局伯爵夫人のアイデアで和洋折衷にしてしまうセンスがすてき。そりゃ料理人たちも惚れちゃいますよね。
千代古齢糖の恋(明治42年)
「千代古齢糖」とはチヨコレイトのこと。当時はまだチョコといえば、砂糖のクリームにチョコをかけたものだった。
革新的な家に育ったさつきは、チヨコレイトが好きで行動的な女学生。
ある日、落とした本をきっかけに夏目と会う約束をする。しかし、社会主義に傾倒している夏目は、さつきを女性の同志としてしか見ていなくて…。
校則違反の髪型「束髪くずし」をしたり、お小遣いでチョコを買ったりと、女学生のやることは昔も今も変わりませんね。
西洋野菜主義(明治35年)
地主の次男・銀次は深草子爵の寮(別荘)に美女がいると聞き、野菜を届ける口実に家を見に行く。
ところが寮には灰をかぶったの女がいるだけだった。
実は彼女こそ美貌の女流画家・紹月(月絵)だった。類まれな美貌と画才をもつが、かまどの火もつけられないほどの料理下手。
銀次は女ながら時代を切り開く彼女に惹かれていく。月絵に並び立つため、当時まだ珍しい西洋野菜の栽培を始める。しかし、紹月はたくさんの求愛者に囲まれていて…。
セロリやアスパラガス、レタス(チシャ)など、今ではあたりまえの野菜も、昔は「西洋野菜」として珍しいものでした。
月絵さんは『陽の末裔』の美貌絵師・京也の母です。深草子爵家とは浅からぬ因縁があるのです。
ビアザケは歌う(大正8年)
女性記者の操さんはビアザケ(ビール)職人だった祖父の薫陶でかなりの「のんべい」に育ってしまった。
それを隠していたのだが、ひょんなことからカフェーの女給・はま子と知り合い、彼女の勤め先・「グラン・カフェー」に招かれる。
実はそこの支配人こそ、祖父が口約束で決めた操の許婚だった…。
当時のカフェーは今とは違い、アルコールも出していて男性客が大半。店にはお酌をしたり接客をする女給さんたちがいたのです。
操さんは『陽の末裔』で卯乃の上司で、頼りがいのある女性でした。
キャベツ巻き次第(昭和3年)
社交界の花形であった長与侯爵家の娘・実子(みのりこ)さんの結婚相手は、庶民派の詩人・長谷川淳氏。
華族のお嬢様がいきなり庶民のくらしになれるはずもなく、最初はできないことの連続。
けれど、詩作に没頭する潤のため、料理をつくろうと買い物に出かける。近所の人々にロールキャベツの作り方を教えてもらうのだが…
持ち前の明るさと社交性で、社交界だけでなく、下町の人々ともすぐ親しくなる実子さんなのでした。
詩人の淳さんは『陽の末裔』で咲久子が後見をしていた芸術家ですね。こうした本編に少しだけ登場した人々の暮らしの様子が見れるのは楽しいです。
牧場の朝 海の夜(昭和5年)
湘南の牧場の娘・幸は、牛乳の販売先を探して単身、サナトリウムへ営業に向う。料理長に断られた幸を助けてくれたのは、療養に来ていた美貌の画家・九門京也だった。
すべてを断ち切り、心を閉ざした京也。そんな京也には、心身ともに健康な幸と牧場の家族との交流は楽しいものだったのだが…
こうしてみると、九門京也というひとは気まぐれにみえるけれど、自分の心のままに生きた真の芸術家だったのですね。
市川ジュン作品感想
- この星の夜明け…昭和初期に弁護士を目指す女性を描いた物語
- 陽の末裔1…大正時代、卯乃と咲久子、対象的なふたりの少女の物語が始まる
- 陽の末裔2…財閥令嬢と新聞記者。立場が違っても友情は続く
- 陽の末裔3…恋に苦しむ卯乃と、敵を完膚なきまでに叩きのめす咲久子
- 陽の末裔4…結婚で地位を得る咲久子と、当時の娼婦の自由廃業について
- 陽の末裔5…婚家を乗っ取る咲久子と、女性問題に目を向ける卯乃
- 陽の末裔6…暗雲の中の太陽の娘たち
- 陽の末裔7…逆境すらも糧として成長してゆく
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