愛している深草子爵を捨て、世間知らずの伯爵と結婚した咲久子。卯乃は新聞記者のかたわら、女性問題についての活動を進めていきます。
『陽の末裔5』あらすじ
桜町伯爵家は当主が闘病中息子の有光は頼りなく、伯爵夫人は家を盛り立てるため強い咲久子を嫁に迎える。
しかし、咲久子という「劇薬」は世間知らずの華族では扱えるはずもなかった。
咲久子は気弱な夫を尻目にホテル事業に乗り出す。しかし、伯爵夫人から相談を受けた深草子爵が横槍を入れて失敗。
森と別れた後、卯乃は仕事や婦人活動に精力的に取り組んでいく。卯乃は激しい主張ではなく、女性らしく自然な、来るものを拒まない「女たちの会」を立ち上げる。
卯乃の恋
そんな卯乃の前に特高(特別警察)の刑事・野上が現れます。彼は特高にしては善人で、子供を流してしまった卯乃を心配し、家を訪ねてきます。「子供はお国の宝じゃないか」と。
どうやら、彼は卯乃のことが好きでアプローチをするものの、方法は的外れ。そのため卯乃にはなかなか響かないのです。
野上さん、いい人なんですが「婦人活動なんて辞めて家にいるほうがいい。俺が守ってあげるから。」と、男尊女卑概念を丸出しにしてアプローチします。
幼い頃から女性問題について考え、活動している卯乃に対してそれはないだろ…。
これが当時の男性の一般的な考え方だったんですよね。野上にとってそれが「当たり前」のことだから口にしだだけで。
卯乃はこれから、そうした野上の「当たり前」を変えなければ、と感じます。
咲久子の恋
咲久子の方は、これまで順調に(男たちを手玉に取って)進めてきた計画が頓挫。
その要因が深草子爵の策謀のせいなので、もう、愛憎が入り混じって感情がピークに達してしまうわけです。そんな感情のぶつかりあいの中、子爵と一夜をともにしたことで妊娠。
すったもんだのあげく、桜町と離婚が成立、自分の子を宿した咲久子に求婚した深草子爵との再婚を決めます。
それは、愛しい男と結婚できる喜びと、その男に屈した憎悪による火のような婚姻でした。
懐古的洋食事情
『陽の末裔』シリーズの外伝、『懐古的洋食事情』。こちらは当時の洋食をモチーフにした短編集。咲久子と卯乃以外の登場人物たちが活躍します。
市川ジュン作品感想
- この星の夜明け…昭和初期に弁護士を目指す女性を描いた物語
- 陽の末裔1…大正時代、卯乃と咲久子、対象的なふたりの少女の物語が始まる
- 陽の末裔2…財閥令嬢と新聞記者。立場が違っても友情は続く
- 陽の末裔3…恋に苦しむ卯乃と、敵を完膚なきまでに叩きのめす咲久子
- 陽の末裔4…結婚で地位を得る咲久子と、当時の娼婦の自由廃業について
- 陽の末裔5…婚家を乗っ取る咲久子と、女性問題に目を向ける卯乃
- 陽の末裔6…暗雲の中の太陽の娘たち
- 陽の末裔7…逆境すらも糧として成長してゆく
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