ウルバノヴィチ香苗さんの『まめで四角でやわらかで (上)』。長屋に住む人々の日常が描かれています。大家さんと孫の姉妹、煮売屋の夫婦に浪人の青年に元気な子どもたち。
日々を慎ましく、楽しく生きている姿を読むと、自分も江戸の町人になったような気分になります。

季節の行事と人々の暮らし
『まめで四角でやわらかで』では、特に事件らしい事件は起こりません。江戸の長屋に住む人々の日常が淡々と描かれています。
でも、その日常が我々現代人からみると、それがとても楽しく、愛おしく見えるのです。
例えば、お月見は十五夜だけじゃなく、次の月の十三夜を合わせてみると縁起が良いとか、大家さんが店子にお団子をお酒を配ったりして、当時の人にはビッグイベントだったんですね。
昔は師走の13日には長屋の店子全員で煤払い(大掃除)。すすで真っ黒になるので、掃除が終わるとそのまま湯屋に行ったんだそうです。
江戸のごはん
『まめで四角でやわらかで』では、食べ物の描写が多く、そのどれもが美味しそう。
長屋のお松さんは煮売り屋をやっていて、きんぴらやお芋の煮っころがしなど、惣菜をたくさん作っています。
夜には旦那さんが煮売りのお残りと田楽の屋台を営んでいます。アジは美味しいのに、隣のそば屋のご主人とすぐにケンカが始まってしまうのが玉にキズ。
ほかにもお松さんの季節のお弁当や、女中のお妙ちゃんがつくる朝ごはんが美味しそう。江戸時代の長屋ではごはんを炊くのは朝だけで、昼や夜はそれをおにぎりにしたり、お粥にしたりして食べるのですって。
こちらの紹介動画もすてきです。旦那様でイラストレーターのマテウシュ・ウルバノヴィチさんが手掛けています。
ちなみにウルバノヴィチ香苗さんの夫、マテウシュ・ウルバノヴィチさんは『君の名は』で背景を担当したイラストレーター。
彼の描く東京の風景はどこか懐かしいのです。

描き下ろし漫画
描き下ろし漫画では、いなり寿司の屋台についてウルバノヴィチ香苗さんが資料を調べる話です。「いなり寿司の屋台に置かれたどんぶり。中身は何だろう?」と気になった香苗さん、あちこちを調べて江戸東京博物館の屋台展示を見に行くことに。
博物館のスタッフや学芸員さんの手を借り、最終的に屋台を制作した方に話を聞くことができました。中身は酢生姜だったのですって。
ほんのワンシーンなのに、ここまで綿密に調べて描いてあるんですねえ。
いなり寿司の漫画は下巻に収録されています。

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