大正、昭和の激動の時代を対照的な二人の女性、咲久子と卯野の生き様を描いた『陽の末裔』。
タイトルの『陽の末裔』は女性解放運動家・平塚らいてうの「原始、女性は太陽であった」という一文から。太陽であった末裔の娘たちが、男社会に挑んでいく物語です。
『陽の末裔1』あらすじ
東北の寒村。貧しい百姓の娘・卯乃と、地主の娘・咲久子は立場を超えた親友。卯乃は母親が家での立場が弱く、苦労ばかりなのを理不尽に思う。
咲久子の家は没落し、財産と呼べるものはない。
ある日、村の娘を製糸工場へ斡旋する男がやってくる。自分でお金を稼ぎ、学校にも行けると聞き、卯乃と咲久子は東京の帝都紡績で働くことを決めるのだった。
だがそこは、厳しい労働と過酷な環境で、外出や手紙も制限された監獄のような職場だった。
やがて、咲久子は社長の高島は気に入られ養女となり二人は離れ離れに。
咲久子が去った後、高島家の長男・森と親しくなった卯乃。彼のすすめで文章を新聞社に持ち込み、生きづらさを訴えるのだった。
対照的な二人の女性
女性たちの弱い立場を「おかしいんじゃないか」と言葉にできる卯乃。それがきっかけで新聞記者として道が開けていきます。
一方、咲久子の場合、必要なら貪欲に取り組むけれどそれ以外は切り捨てます。このあたりもとても対照的で面白い。
また、女性としての弱さ、男からの性的なアプローチに関しても2人の考えは違います。
卯乃は労働組合の男たちが女を買う話や、尻を触る行為に「女は同じ人間だと思われていないんだ」と理解し失望します。
一方で咲久子は12~13歳にして自分の性的な価値を理解しています。女衒をあしらったり、高島社長が娘ではなく将来の「妻」にしたいと理解した上で、自分を売り込んでいくのです。
『陽の末裔』たちの奮闘
わたしは男性が女性に抱く感情は「崇拝」と「蔑視」だと思っています。
近頃はようやく「対等」という認識も出てきましたが、昔は母親や恋人、女優などの高嶺の花を「崇拝」する一方、妻や一般女性、下級娼婦などは「蔑視」の対象でした。
たぶん、昔の(今も一部の)男性たちは無意識レベルでやっています。だから、そういった扱いに女性がどんなに傷ついているか理解できないのでしょう。
なにせ無意識なのですから。それを「違うよ」と認識させ、変えさせるのは至難の業です。
咲久子は自分を「崇拝」する男たちを利用して、卯乃は文章を書くという正攻法で。それぞれが男社会で自分の意見を通そうとします。
虎に翼と陽の末裔
2024年、昭和初期に弁護士を目指す女性を描く朝ドラ『虎に翼』でも女性の立場の弱さ、主張が言えない不自由さが描かれています。
『陽の末裔』でも、女性差別と戦う女性たちが描かれています。これが描かれたのが1985年。まだ差別が残る昭和後期にこの作品が描かれました。
作者の市川ジュンさんは作品でいち早く、昔の女性の自立について描いているんです。子供時代に読んで、とても勇気づけられたのを思い出しました。
懐古的洋食事情
『陽の末裔』シリーズの外伝、『懐古的洋食事情』。こちらは当時の洋食をモチーフにした短編集。咲久子と卯乃以外の登場人物たちが活躍します。

市川ジュン作品感想
- この星の夜明け…昭和初期に弁護士を目指す女性を描いた物語
- 陽の末裔1…大正時代、卯乃と咲久子、対象的なふたりの少女の物語が始まる
- 陽の末裔2…財閥令嬢と新聞記者。立場が違っても友情は続く
- 陽の末裔3…恋に苦しむ卯乃と、敵を完膚なきまでに叩きのめす咲久子
- 陽の末裔4…結婚で地位を得る咲久子と、当時の娼婦の自由廃業について
- 陽の末裔5…婚家を乗っ取る咲久子と、女性問題に目を向ける卯乃
- 陽の末裔6…暗雲の中の太陽の娘たち
- 陽の末裔7…逆境すらも糧として成長してゆく
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