『陽の末裔6』市川ジュン

人間ドラマ

愛する男と愛する子、女の幸せを手に入れた咲久子と卯乃。しかし、戦争の暗雲は太陽の娘たちの頭上を覆い、ますます女性が生きづらい時代へ向かいます。

『陽の末裔6』あらすじ

咲久子は、これまで順風満帆でのし上がってきた人生に少し陰りが見え始める。

そしてもうひとりの運命の男、九門京也の変化によって、深草子爵と京也の因縁(実は異母兄弟)に巻き込まれ、一夜をともに。

おそらく咲久子も京也を信頼し、愛していたけれど、咲久子は彼が自分を利用したことに激しく憤る。

やがて京也は結核で死亡し、咲久子は京也の子を出産。「わたしならぼろぼろになっても生きてやるわ」と彼の死を聞いて、自分の決意を語る。

しかし、夫の深草子爵は2人の嫉妬から咲久子のもとを離れていく。

一方、卯乃は野上と距離を縮めていく。野上は「女は男に守られるもの」という認識から、卯乃が語った「太陽の娘」というフレーズに感動し、考えを改めていく。

ふたりはお互いの意見を戦わせることで理解を深め、やがて結婚。しかし「女たちの会」は特高から目をつけられ、主催者のひとり、如月が連行されてしまい…。

暗雲の中の太陽の娘たち

卯乃は特高刑事に自分たちの思いを語ります。

私達が思うのは 毎日生きている中での女の不便さです。

不自由だからこそ、立場を保障する法律(や選挙権)を目指すのですが、ガチガチの国粋主義の特高刑事にはその意思はなかなか伝わりません。

当時の特高警察は国体(軍国主義)に反対する人間には容赦なく、拷問も日常茶飯事。作家の小林多喜二なども特高警察の拷問が原因で死亡しました。

一方「女たちの会」でも問題発生。卯乃のポリシーから老若男女、さまざまなタイプの女性(男性)も参加していました。

しかし、会員たちは元女郎のおひでを差別し、おひではそれに耐えられずカフェーをやめ妾になったりと、悪循環も続きます。

どんな困難があろうとも、それでも咲久子は自分を高めるため、卯乃は女性の地位を向上させるため、それぞれの誇りと生き方を貫いていこうとします。

それは、愛する男や子供であっても変えられない信念でした。しかし、戦争はそんな彼女たちを窮地に追い込んでいきます。

懐古的洋食事情

『陽の末裔』シリーズの外伝、『懐古的洋食事情』。こちらは当時の洋食をモチーフにした短編集。咲久子と卯乃以外の登場人物たちが活躍します。

市川ジュン作品感想

  • この星の夜明け…昭和初期に弁護士を目指す女性を描いた物語
  • 陽の末裔1…大正時代、卯乃と咲久子、対象的なふたりの少女の物語が始まる
  • 陽の末裔2…財閥令嬢と新聞記者。立場が違っても友情は続く
  • 陽の末裔3…恋に苦しむ卯乃と、敵を完膚なきまでに叩きのめす咲久子
  • 陽の末裔4…結婚で地位を得る咲久子と、当時の娼婦の自由廃業について
  • 陽の末裔5…婚家を乗っ取る咲久子と、女性問題に目を向ける卯乃
  • 陽の末裔6…暗雲の中の太陽の娘たち
  • 陽の末裔7…逆境すらも糧として成長してゆく
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