諦念と決意『扇島歳時記4』高浜寛

人間ドラマ

扇島歳時記4』では長崎・丸山遊郭で生きる少女・たまの成長と、出島周辺の人々の物語も終わりを迎えます。

親しい人々が次々と去っていき、遊女となる時間が刻々と近づいていきます。

著:高浜寛
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『扇島歳時記4』あらすじ

「たま」は新造としての教育を受け始め、姉女郎の咲ノ助はハルトマンが忘れられず虚しい日々を送る。

一方、「たま」に思いを寄せるヴィクトールは彼女を遊郭からを救おうとするが、周囲から厳しい現実をつきつけられてしまう。

また、東北征伐へと旅立った出島の役人・虎四郎は戦う間に女子供を冷徹に殺せるように…。

岩次はキリシタン仲間の流罪をうけ、自らもまた告白しようと奉行所へ向かう。

さまざまな人々の痛みを伴いながら、残酷に時は進んでいく。

少女時代の終わり

物語は「たま」が遊女としてデビューする直前で終わっています。もう少し先まで読みたい…。

などと、無粋なことを思うのですが、『扇島歳時記』は「たま」の少女時代と、江戸が明治になるまでのひとときを描いたものなので、やはりここで終わるのがいいのでしょう。

そして、時が流れるごとに「たま」の周りから親しい人々が去っていきます。同輩のりきやは労咳(結核)で家に戻り、咲ノ助は行方不明に。

幼い頃から面倒を見てくれた、おたきさんにも病の影が。

そんな親しい人々との別れや、遊郭の現実(手出し無用の新造に無理やり迫る客)を経験し、「たま」は一足飛びに大人になってしまいます。

「あきらめた」と言ってもいいのでしょう。

しかし、まだ大人になりきれないヴィクトールは「たま」への思いを燻ぶらせ、「たま」に思いをぶつけようとします。

そんなヴィクトールに「たま」が贈ったのが「所縁の月」という三味線の地唄。他の男に身請けされる遊女が、今は昔の思い人への思いを綴った歌です。

諦念と決意を秘め、少女は大人になっていきます。

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