『蝶のみちゆき』高浜寛

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幕末・長崎の丸山遊郭が舞台の『蝶のみちゆき』。蝶のごとき花魁の、はかなくも美しい生涯が美しいタッチと詳細な心理描写で描かれています。

著:高浜寛
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『蝶のみちゆき』あらすじ

丸山遊郭の太夫・几帳は、美しいが変わり者。太夫は好かない客を降ることもあるのに、几帳は金さえつめば客を選ばない。みなが嫌がる出島での異人の相手も率先してつとめてゆく。

出島のオランダ人、トーン先生にも贔屓にされ、太夫として栄華を極める几帳。

しかし、彼女には秘めた思いがあり、そのためなら金ずくの客の相手もしてみせるのだった。

濃厚な性と死

遊郭という場所は、客に見せる表は百花繚乱。豪華な食事にきらびやかな装飾、美しく床上手な遊女を相手に、男はこの世の極楽を味わうことでしょう。

けれどその裏では梅毒による腫瘍(ボク)、見受けもままならない借金、心を通わせた男の浮気など、表側が美しい分、光の当たらない遊女たちの裏側は生き地獄。

姐女郎の転落や、家族からの軽蔑を受けながらも、それでも几帳は凛として絢爛豪華な地獄を生き続けています。

ここが一番いいところ…(ここからネタバレ)

物語がすすむにつれて、几帳が隠していた事実が明らかになっていきます。身請けしてくれた夫の病と義理の息子のため、再び遊郭で働く決意をしたこと。

家族のために医者であるトーン先生を利用し、傷つけてしまったこと。

すべての悲しみ、苦しみを抱えて、それでも几帳は太夫として咲き誇る。やがて朽ちていくまで。

妹女郎の「たま」に「ここが一番いいところ」だと語る几帳の、本当の思いはどこにあるのだろう。

遊郭の光と闇、雨のしずくで張りついた髪、太夫の絢爛豪華な衣装、几帳の肌の美しさ。

『蝶のみちゆき』には絵の「質感」が感じられ、いつの間にかその世界に入り込んでしまいます。

特に、各話の最後に描かれた、闇の中にたよりなく飛ぶ蝶の挿絵が物語を暗示しているようで、切なくて怖くて美しい…。

丸山遊廓について

丸山遊廓は吉原より出入りは自由ですし、年季後は普通に結婚する女性も多いとはいえ、やはり苦界には変わりないんです。

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