長崎の遊郭・丸山を舞台に少女「たま」と出島周辺の人々を描く『扇島歳時記3』。「たま」は初潮を迎えて出島を去り、本格的な遊女教育を受けることに。
出島のたけくらべ
出島から丸山へ戻ることになった「たま」は、出島の少年・ヴィクトールから「君を守る、必ず助けに行く」と告げられ、その言葉の意味もわからず動揺します。
後に同輩のりきやから「苦界から助けると言うのが、男の本気のしるし」であると教えられるものの、遊郭で生まれ育った「たま」はそもそも廓が苦界だとは思っていません。
遊女になる運命の少女と、異国の少年。大人になる前の、ほんの少しの出会いは「たけくらべ」を思い出します。
ふたりはこのまま、すれ違っていくのでしょうか…。
遊女教育のはじまり
そして、いよいよ「たま」改め「たまを」の遊女教育が始まります。「たま」という子は遊郭育ちなのに、色恋に疎く、男女の交わりについてもよくわかっていません。
同輩のりきやは少し耳年増のようですが、他の太夫衆候補たちも同じようなのです。
吉原の禿は小さい頃から姐さんの閨房を覗き見て覚えるらしいのですが、丸山の禿は無垢なまま育てられるようですね。
先輩遊女による春画を使った講義は非常に的確で、房中術と遊女の仕事についてわかりやすく説明してくれています。
まだ、男になれていない少女たちには「添い寝」という形で客と同衾させ、徐々に慣れさせ、最初は経験豊かな常連客を当ててもらえるのだとか。
特に、客に「気を遣る」ことで、「本気になってしまうのが一番危ない」と、りきやは言います。
やがて「たま」は「たまを」として座敷にあがり、客との添い寝を体験し、りきやとふたり、不安な心を慰め合うのですが、りきやには病の影が…。

出島周辺の人々
「たま」の周囲の人々も運命が動き出します。
先輩太夫の咲ノ助は、出島のハルトマンが忘れられず、隠れキリシタンの岩次は、仲間のキリシタン処分を受けること、自分だけが生き残ることに罪悪感を抱えています。
そんな中、幕末の動乱は続き、出島の侍、虎四郎は官軍として志願し奥羽へ。それぞれの人々の運命を変えて、時代は明治へ…。
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