『烏は主を選ばない2』で見事(?)側仕えとなった雪哉を待つのは若君のムチャ振り、刺客の襲来…。
挙句の果てには無法地帯「谷間」へ伴われてしまう。大丈夫か雪哉、がんばれ雪哉…。

『烏は主を選ばない2』あらすじ
しぶしぶながらも若宮・奈月彦の側仕えを始めた雪哉。いきなり御前会議に乗り込む若宮についていくと、会議は若宮の廃嫡問題で揉めていた。
若宮は場を無理やり制圧すると、不遜な態度で兄である長束に強引に忠誠を誓わせ、周囲の反感を買ってしまう。
雪哉が後に理由を聞くと、「私は真の金鳥だから。」とはぐらかされる。真の金鳥とは山内が危機に貧した時に現れ、世界を救う力を併せ持つらしい。
その後、花街へ帰りに刺客に襲われてしまう雪哉と若宮。実は若宮は政敵である大紫の御前(長束の母)に何度も命を狙われいた。
后候補に会いに行かない理由も、周りを巻き込まないためだった。
事情を聞かされた雪哉は、とりあえず「一年間限定」で近習となる約束をする。しかし、今度は非合法の歓楽街・谷間に連れて行かれ、若宮の博打につきあわされることに…。
最強の一厘
ここへ来て、雪哉の隠れた才能が明らかになりましたね。一度見た八咫烏(にんげん)の顔を忘れないという驚異の記憶力(本人は普通だと思っている)。
また、若宮の真意に気づき、直感力と事務処理スキルはもはや天才レベルです。
それは「周りの九分九厘が敵」という若宮にとって、澄尾とともに最強の一厘となるのでしょうね。澄尾もまた、文武両道に優れた才能の持ち主ですし。
漫画描写のかっこよさ
漫画『烏は主を選ばない』には、本編のほかに、これまで書かれた外伝などのエピソードが加えられています。
松崎先生が描く山内の風景描写がすばらしく、花街の華やかさと谷間の汚さ、その対比の描きかたが詳細で、山内の世界をよりリアルに感じることができました。
これも、松崎・阿部両先生の仲の良さとコンビネーションの賜物なのでしょうね。
アクションシーンも、おまけイラスト(市柳パイセンのヤンキールック)なども見応えたっぷり。
「追憶」から「主」へ
そして、なぜこんなに感想を書くのが遅れたのかというと、もろもろ忙しかったというのもありますが、やはりアレですよ、『追憶の烏』のショックですよ…。
しばらく立ち直れず、『追憶の烏』ネタバレトークイベントでもその傷は癒やれるどころか、むしろ作者に塩を塗られた感があったし。(でも楽しかったですけど)
なので、冷静に読めたのってここ最近のことなんです。
これから成長して『追憶の烏』では過酷な運命を背負う雪哉の、たぶん最も幸せな時期を描いているのが『烏は主を選ばない2』なのですから。

しかし、「これで最も幸せ?」と思うほど、雪哉はここでも大変ですが…。
でもね、きちんと人向き合えるのって、実は幸せなことだと思うんですよ。雪哉は奈月彦に対して何度もキレ散らかしてますが、それでも雪哉は奈月彦に向き合っていますから。
家族以外の人間には「ぼんくら」の仮面をつけて相手を図っている少年が、です。雪哉自身、そのことに気がついているのかはわかりませんが。
「追憶」の結末を知っているからこそ、今この時、必死に抗っている雪哉の生き様を感じて読んでいこうと思います。
八咫烏シリーズ感想
未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。
第一部
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- Audible『烏に単衣は似合わない』…そりゃこんな声で笑顔で言われたら落ちますよ…
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!
- 『空棺の烏』…人材育成、和製ハリー・ポッター(魔法なし)
- 『玉依姫』…なんで私が異世界に?
- 『弥栄の烏』…山神さま、ちょっと落ち着いてください…!
第二部
- 『楽園の烏』…地獄のここが楽園だ。ダース・ベイダー雪斎爆誕
- 『追憶の烏』…私はただ、お慰めしたかっただけなのです…!
- 『烏の緑羽』…バブみイケメン成長ゲー
- 『望月の烏』…私、博陸侯のお手伝いをしたいのです!
- 『亡霊の烏』…紫苑VS博陸侯。試合に勝って勝負に負けた博陸侯
外伝
- 『かりんみず』…美味しいかりんみずはいかがですか?藤波さま
- 『さわべりのきじん』…虫を生のまま食おうとすんじゃねえ
- 『きらをきそう』…山内版・北斎の娘と花魁の世界
- 『烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1』…雪哉がセミ食ったりとか
- 『烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2』…きんかんを煮たりしています
幕間(外界視点からの山内)
松崎夏未さんによるコミカライズ
烏に単は似合わない
- 『烏に単は似合わない1』…圧巻の描写と詳細な設定で描かれる八咫烏ワールドの始まり
- 『烏に単は似合わない2』…姫たちの陰謀と思惑が交錯する中、ある事件が起こる
- 『烏に単は似合わない3』…桜花宮で起こった連続殺人。さらに姫の一人が心を病んでしまう
- 『烏に単は似合わない4』…陰謀と殺人の真相。その真犯人は意外な人物だった
烏は主を選ばない
- 『烏は主を選ばない1』…絶妙なキャラクターと風景描写
- 『烏は主を選ばない2』…ムチャ振り、刺客の襲来、貧民街への出向
- 『烏は主を選ばない3』…圧巻の谷間描写
- 『烏は主を選ばない4』…「あれは下賤の者だ」の意味
- 『烏は主を選ばない5』…意外な裏切り者と意外な協力者
ファンブック・イベント
- 『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』…ファンブックの電子簡易版
- 『八咫烏シリーズファンブック』…読めばだいたいのことはわかる
- 『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想…鬼畜作家に精神を翻弄される漫画家
- 八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023…眼福だったし阿部先生ファンには菩薩だった
- 漫画版『烏は主を選ばない』3巻刊行記念スペースざっくり聞き書き…計算され尽くしたキャラ設定まじすごい
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