海野つなみさんのキスをめぐる5つの短編漫画集『キスの事情』。各話の登場人物たちが少しずつリンクしていきます。
海野つなみさんの描く世界は、普通の少女漫画とは一味ちがう「深み」があります。登場人物たちが互いにリンクしあうことで、絶対的な主人公が存在しない。

少女漫画の王道である「主人公に意地悪する女子」などの単純化されたキャラクターではなく、それぞれの視点から描かれる物語は、同じ事柄でも全く違う景色が展開されていきます。
海野つなみ作品はギャグ的要素がふんだんにあって、一見明るいのだけれど、どこか闇やエロス、死を暗示させるような表現が見え隠れしているように感じます。
それがまた、海野つなみ作品の「深み」になっているのだと思います。
キスにまつわるオムニバス
「チョコレートホリック」で恋する男に血のついた指を差し出され、主人公が思わず指にキスをしようとするシーンは官能的でドキドキしました。
「少年人魚」は、もともと「tsunamix2(ツナミックス)」で最初に読み、その後「回転銀河4」に掲載された続編を読みました。
先生に片思いする女の子の話。けれど先生は、彼女の母親(小説家)のファンで、あるきっかけから先生と母親が結婚することになり、彼女は失恋。
一見、平凡なお話なのですが、劇中に紹介された「少年人魚」という架空の不思議な話が、物語にうまくからみあい、女の子の切なさが伝わります。
ちょっと悲しい展開の続編を知っているだけに、切なさが倍増します。「少年人魚」は独立したおはなしとして読んでみたいなあ。
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